夜のキャンプ

1996年の秋。当時某金融機関に勤めていた私は金融機関名物の年に一度の強制9連休を利用して紀伊半島にやって来ていた。

朝、自宅を出て、国道20号で塩尻に向かい、そこから国道19号で名古屋に向かうというおおむねJR中央線に沿ったコースを

一般道のみで走りとおし、三重県内に入ったのは日付が変わって午前2時頃であった。国道23号の橋の下で車中泊をした翌朝は

雨であった。そこからひたすら紀伊半島を南下し、和歌山県の山中にある龍神温泉についたのは夕方4時頃であった。事前に

当時は車が家の車:ブルーバード、自分の車:シルビアであったため、宿泊はテント泊がメインであった。そのため日が暮れて

くるとその日のねぐらを探すという仕事が待っているのであった。この日は国道の脇の川原にテントを張ることにした。

国道から階段を降りること10メートルくらいのところに結構なスペースがあり、温泉街からもそこそこ離れているので快適な

一夜が過ごせると思ったのであった。川原のには小さな10m×5m程の小さな草むらがあったので蚊がでることを恐れて

草むらからは少し離れたところにテントを張った。そして飯ごうでご飯を炊くと同時に、レトルトカレーを温めて夕食を取った。

夕食後、龍神温泉の共同浴場に行く。大きな木の下にある露天の共同浴場である。人も少なくのんびりすることができた。

そして、テントで寝るために再び川原へと続く階段を降りていくころにはあたりはすっかり暗くなっていた。このころは

一人旅がメインであり、真暗になったテントに戻るのは少し不安な気持ちになることが多かった。そんな気持ちを吹き飛ばすべく

あらかじめ買込んでいたビールを飲みさっさと寝ることにした。そして、どのくらいの時間がたっただろうか?ふとテントの

周りが騒がしいのに気づいたのである。何匹かの獣がテントの周りを歩き回っているのが感じられた。この川原は国道側は

高さ10m程のコンクリートの崖になっており、川原そのものも20m×8m程の小さな川原だったのでまさか動物がいるとは

思いもよらなかった。そのうち、ミャーミャーという泣き声が聞こえてきたので、外の動物はどうやら猪ではないらしい

ということがわかった。思い切ってテントから顔を出して外を覗いてみるとランランと輝くいくつかの瞳・・・

数匹のタヌキたちがテントの外に置いていた私の夕食の食べ残しをあさっているところでした。翌朝、テントから出てみると

食器や鍋などがタヌキに荒らされそこら中に散らかっていたのでした。



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