滝壺

96年の成人の日の連休。社会人になって始めてのボーナスでテントと寝袋を購入した私は静岡県の大井川渓谷付近を旅していた。

静岡とはいえ山の中なので日陰には雪が残っている。
「林道を舗装しただけ」といった雰囲気の県道を走りまわり、日も傾いた頃、

ようやく見つけた
テントサイトは、小さな沢の河原であった。テントに潜り込むとすぐに日が暮れた。ビールを飲んで

すぐに寝袋に潜り込んだ。そして夜・・・寒い、猛烈に寒い。一度目が覚めるともう二度と眠れない。このころはまだまだ冬用の装備が

甘かったのだ。頭上の木々から枝が落ちてくるのか、それともテントのまわりを何者かが歩き回っているのか、ときどきテントのまわりで

パキパキと枝の折れるような音がする。テントからは外が見えないのでかなり不気味だった。初めての一人キャンプは悪夢の夜であった。

それでもいつまにか寝込んでいたようで、気がつくとテントの外が明るくなっていた。日が昇り多少は温かくなってきたので撤収することにした。

車を止めている道路までいくには、幅1mくらいの小さな沢を渡らなければならない。テントを抱えて沢をひとまたぎ・・・

したつもりだったのだが、足を踏み外してしまい、右足は沢の中へ・・・ 運悪くそこは高さが1.5mくらいある滝の上だったので、

バランスを崩した私はそのまま滝壷へ頭から落ちてしまった。一瞬、真っ青な青空が見えた。このまま川底の岩に頭をぶつけて気を失って

溺死してしまうのだろうか?そんなことが一瞬
頭をよぎった。次の瞬間、大きな水音とともに水の中へ。ゴボゴボゴボ・・・

なんとか水面に顔を出すことが出来た。滝壷は水深1.5mくらいだった。雪解け水で冷たい沢の水から逃れようと必死で近くの岩にしがみつく


何とか車に戻って暖房をMAXにして近所の温泉が開くまで一時間くらい震えていた。このときは荷物の軽量化を図る為、

着替えを一切持ってきておらず。濡れた服で家まで帰ることになったのであった。



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